玄翁(ゲンノウ)

ひと口に金槌といっても、いろいろな種類があります。

一般家庭のDIYなどでは、片側に釘抜きの付いた”ネイルハンマー”を使うことが多いと思いますが、

私たち大工が使うのはくぎ抜きの付いていない「玄翁」です。

もっとも、今どきの釘打ちは”てっぽう”と呼ばれるピストル型の釘打機を使います。

玄翁は、木の部材を入れ込んだり、部材を微調整するときに使います。

玄翁の頭部は両面ともに平らに見えます。

でも、実は平らなのは片側だけで、反対側はわずかに凸面になっています。

平らな面は力を伝えやすいものの、角度がずれると木に傷をつけやすい特徴があります。

一方の凸面は、力が適度に分散し木を気付けにくくなっています。

よくできたデザインなんですよ。

入社直後、私は市販の玄翁を使っていました。

すると先輩から、「プロになるなら、玄翁くらいちゃんとしたものを使え」と言われました。

知識も経験も乏しかった私は、道具屋さんに出向き、

先輩に教えてもらった大きさの金属槌や柄を買ってきました。

ただ、それだけではプロの道具になりません。

先輩の指導のもと、柄に墨を付け、カンナで削り、ヤスリで仕上げていきました。

丸一日以上かかったと思います。

その後さらに半年くらいかけて、刃物やヤスリで微調整を加え、

ようやく自分の手に合うようになったのが、この玄翁です。

私は岩手県出身なので、機会があれば、東日本大震災で被災した方々のもとへ

大工としてお手伝いに行きたいと考えています。

そのときには、もちろん、この玄翁も連れていくつもりです。

いずれ柄は交換することになりますが、思い入れが強いので、一生手元に置いておくと思います。