2018年の2月に創建舎の大工となりました。
以前も、大工として茶 室やお寺などの木造建築に関わってきたのですが、
お客様が喜ばれる姿に 間近で触れたいと思って転職しました。
墨壺は、墨を浸した綿が入っている壺、糸を巻き取る糸車、
糸を引き出 す軽子(かるこ)と呼ばれる針状の部品で構成されています。
使うときに は、軽子を材木の端に刺してから本体を移動させ、
墨をくぐらせた糸を張って指で弾きます。
すると、材木に正確な直線が引かれます。
とても古く から存在する大工道具で、日本最古の墨壺は正倉院に保管されているそうです。
最近はプラスチック製が多いのですが、私が愛用している夫婦の墨壺は ともに木製です。
最初に入手したのは、墨代わりにベンガラを使う朱壺です。
5年ほど前、60歳代の先輩大工に「どうして上手い仕事ができるん ですか」と聞いたところ、
「いや、道具が仕事をしてくれるんだ。これを使いなさい」と頂戴したのです。
この朱壺は「坪貞」という屋号が刻まれた銘品で、すでに廃業しているため入手困難な代物でした。
ところが、その数ヶ月後、偶然にも道具屋さんで同じ坪貞の黒い墨壺と出会えました。
ちょっと価格は高めでしたが、思い切って購入しました。
機能だけで言えば、価格を抑えたプラスチック製品で問題ありません。
ただ、木造建築 を手がけるときには、同じ木でできた道具を使った方がやはり気持ちが入ります。
加えて、美しい彫刻が施された工芸品としての存在感もあるので、
より良い仕事をしたいという思いが強くなるのかも知れません。
休日は、よく美術館に足を運びます。
実は、これも先輩大工からの教え です。
「たくさんの美しいものに触れろ」ということなんでしょうね。
腕の良い大工が多い創建舎でも学びを重ね、さらに技術を磨いていきたい です。
大工:金澤 鉄平