住宅の建築現場では、さまざまな場面で糸が用いられ、 基礎や外構の工事現場で、縦横にピーンと張られた糸を見たことがある方は多いと思います。
あれらの糸は「水糸」と呼ばれ、水平や高さを合わせるための基準となる直線を示すために使います。
その後、柱や梁などの構造材を組む段階に移り、上棟を終えた段階になっても、まだまだ水糸の出番は続きます。水糸には、一瞬にして空間に直線を置けるという独自の機能もあるからです。
木材の加工に関わる作業でよく使うのは、糸が収められた本体に軽子(かるこ)が付いたタイプです。
使うときには、本体の針を木材に刺して固定してから、糸の付いた軽子を引き出し、糸をピーンと張った状態で軽子の針をもう一端の木材に刺します。これで糸の直線ができます。
使った後は軽子を外し、糸を巻き戻します。
いろいろな場面で使うのですが、水糸ならではの特徴がわかる例として挙げられるのは天井面の高さ調整です。
実は、木造住宅の天井面は水平ではありません。
完全な水平面だと、目の錯覚で下がっているように見えてしまうため、意図的に 部屋の中央部分を少しだけ上方向に上げています 。
窓枠も同じように少しだけずらします。上辺、右辺、左辺の三辺の中央部分を少しだけ膨らませます。
窓の大きさや位置、間取りなどで印象は変わりますし、具体的に数値の決まりはありませんが、 スムーズに開け閉めができる機能を維持しながら、より美しく見えるように、目測でミリ単位の調整をするのです。
ある意味、大工の自己満足とも言えますが、学んだ知識と技術を生かして、少しでも良い仕事をしたいという思いが勝ってしまうのです。
池内 俊介