木材を切ったり削ったりするときに、「墨付け」という作業をします。
墨の付いた糸をピンと張ってから弾いて線を引く、「墨つぼ」による墨付けがよく知られています。
ただ、鉛筆で印を付けることも、大工は墨付けと言います。
この墨付けで欠かせない道具が「指矩」です。
L字型の金属製の定規で、見たことのある方も多いと思います。
一般的な直線の定規は、長さを測ったり線を引いたりするだけですが、
指矩には他にもいろいろな使い方があります。
ポイントとなるのは目盛りの刻み方。
さまざまな製品がありますが、特に実用性が高いのは、
表面の目盛りを1・1414倍した数字を裏面に記したものです。
1・1414というのは、2の平方根、つまりルート2倍です。
この目盛りのおかげで、いちいち計算せずに正確な45度を素早く墨付けできるんです。
これは代表的な使い方で、もっと複雑な角度や寸法も簡単に見つけられます。
16年前に大工の仕事を始めた当初は、まだ指矩の奥深さをわかっていませんした。
数年経ってから、ようやく「これは、すごい道具だな」と気付いたんです。
使いこなせるようになったのは、6年目くらいでしょうか。
それでも、まだマスターできていないと思っています。
指矩さえあれば、大工仕事に必要とされる角度や寸法は、すべて導き出せるはずなんですよ。
現場では、大工たちは状況に応じて仕事を分担して進めます。
それでも、墨付けがあるときには、自ら進んで「これも、やっておくよ」と言ってしまいます。
指矩の機能と使い勝手を追求したい思いが、強すぎるのかも知れません。
大工・池内俊介