鏝鑿(コテノミ)

鑿にはいくつもの種類があるのですが、これは「鏝鑿」と呼ばれるものです。

「首」という柄から伸びた細い金属部分の、曲がっている形状に特徴があります。

真っ直ぐな首の鑿では届きにくい、木材の溝の底などを削って仕上げるときに使います。

異なるサイズの刃幅をそろえているのは、削る部分の広さや形状によって使い分けるためです。

私が初めて購入した鏝鑿は市販されているもので、三分、五分、七分と、三種類の刃幅を用意しました。

その後、大工仕事の経験を積むにしたがって、

鏝鑿の使い勝手は、首の曲がり方にも影響を受けることに気付きました。

刃の付いた道具の多くは、切れ味が最も重要です。

私たち大工が複数の砥石を使って、日頃から刃先を研ぎ上げるのも、そうした理由からです。

ただ、鏝鑿の場合、首の曲がり方によっては先端に上手く力が伝わらず、

研ぎ上げた刃先を生かしきれないことがあるんです。

もともと私は道具が好きで、休みの日にも道具屋さんに足を運んで現物を手にしたり、

ネットで鍛冶屋さんのサイトや他の大工のSNSを見て回ったりしています。

時には、道具屋さんが鍛冶屋さんに依頼した別注品や、

手間のかかる製法でつくられた逸品に出会ったり、道具の世界は奥が深く飽きないのです。

この鏝鑿も、数多くの道具を調べていく中で出会った代物です。

見た瞬間に、「この形は良い」と感じたことを覚えています。

製材の加工技術が進んだ近年では、実は鏝鑿が必要とされるケースは少なくなっています。

一棟の家に対して、一箇所しか使わないことも珍しくありません。

また、鑿の種類によっては数年に一度しか出番がないものもあります。

それでも、自分の力だけを使う手道具には、色褪せない魅力が感じられます。

理にかなった形状を研究し続けてきた先人たちの知恵、

そして、その歴史に支えられた大工としての矜持です。

 

大工・上井戸健一