掴箸

創建舎の住宅で、板金工事の仕事をしています。

竣工後は目に付きにくいのですが、屋根や雨樋などに金属板を取り付けて、

建物内に雨水が浸入しないようにすることが主な仕事です。

実作業では、取り付け場所の寸法に合わせて、金属板を専用のハサミで切ります。

その後、水の流れを読んで金属板の端を立ち上げたり、曲げたり、角を付けたりします。

このとき使う道具が、掴箸です。

掴箸には、掴む部分の幅や柄の長さが何種類もあります。

どの部分を、どの程度の幅で、どのような角度やカーブに加工するかによって、それぞれ使い分けます。

板金工事の特徴として挙げられるのは、職人の判断に委ねられる場面が多いことでしょう。

わずかな隙間でも水は浸入するので、図面やマニュアルよりも優先すべきケースがあるのです。

仮に1ミリ未満の誤差であっても、雨を防げなければ意味はありません。

ですから私は、とにかく丁寧な作業を心掛けています。

また、なるべくハサミを使わず、掴箸で曲げて繋ぐようにしています。

時間も手間も掛かりますが、その方が確実なのです。

この仕事を始めて27年になります。

最初に教わったのは、

「雨漏りだけは絶対にさせてはならない」「自分の判断でやっていくしかない」

という無形の指南でした。

自分自身が後輩に教えるようになってからは、

「他の職人の仕事を、どんどん吸収してこい」という言葉を加えました。

板金工事に完璧な方法は存在しない、という結論に至ったことが理由です。

私たち職人はいくつもの住宅に関わりますが、ほとんどのお客様にとって、

住宅建築は一生に一度のこと。

私たちがベストを目指すには、現状に満足せず、

常に新しい技術を求め実践していくことが必要だと思っています。

同時に、それが板金職人としてのプライドでもであります。

 

山口板金・荒 勇次郎