マルチツール

大工道具は日進月歩で、この「マルチツール」も比較的新しい電動工具です。はっきりと時期を覚えていないのですが、初めて目にしてから十年も経っていません。マルチツールは切断、剥離、研磨などの作業に使います。電動工具の多くは、グルグルと回る回転運動、あるいは前後左右に動く振幅運動を利用するタイプが多いです。対してマルチツールはちょっと違っていて、振り子のように動きます。先端にブレードと呼ばれる交換式アタッチメントを付けるのですが、このブレードの種類が豊富なので、さまざまな加工に対応してくれます 。

 

私がよく使うのは、切断用のブレードです。小さなギザギザの刃が付いた先端部分が、緩やかなカーブに仕上げられています。スイッチを入れると、この先端部分が数ミリ程度の振り幅で高速運動します。そして、切断したい部分に当てるとスムーズにカットしてくれるのです。壁面にコンセントカバーを付ける四角形の開口部をつくるときなど、あっという間に作業が済みます。また木造建築では、木材と木材が接する面にくさびを差し込んで調整することが多いのですが、差し込んだくさびのはみ出た部分だけを切断するときにも重宝します。どちらの作業も、他の切断用の工具で済ませることができます。しかし、手軽な使い勝手や仕上がりはマルチツールにかないません。

 

リフォームのときには、残す部分と壊す部分の境目を切り分けるときに活躍します。金属と木材のどちらにも対応するブレードを付けておくと、ある程度の太さまでならば、木材の奥に隠れたクギやビスなどを一緒に切断してしまうことができるのです。普段私はあまり使わないのですが、ヤスリ機能を持ったブレードを付ければ、カチカチに硬化した接着剤を削ったり、接した木材面に生じた1ミリ以下の段差をそろえるといった使い方もできます 。

 

このコードレスモデルを、自分の道具に加えたのは2021年です。それまではコード付きモデルを使っていました。現場ではさまざまな線が行き交うので、段取りを踏まえた配線を考えることも大事な仕事となっています。コードレスモデルは持ち運びや狭い空間での作業の利便性に加え、作業全体の質に関わる段取りも良くしてくれます。新しい道具を使って上質な木造建築に携われることも、この仕事の面白さのひとつだと感じさせてくれます。

 

和田 英明