スーパーカブと都市住宅

こんにちは。仲間です。

住宅のデザインをしていると、普段見かける様々なモノのデザインにも興味が湧いてきます。最近は街中で走っているのを時々見かけるホンダのスーパーカブのデザインが気に入っています。特別バイクが好きなわけではないですが、なぜかあの見慣れたフォルムにジワジワと惹かれています。

そんな、ちょっとした興味からスーパーカブのデザインについて調べてみると面白い開発秘話を知ることになりました。

ホンダ創設者の本田宗一郎はスーパーカブ開発当初(1950年代)、全く新しい50ccバイクをつくる事を目指して、スタッフに「オートバイでもスクーターでもないものをつくれ」「手の内に入るものにしろ」「使い勝手の良いものにせよ」「女性でも扱いやすいものにせよ」といった多くの条件を出したそうです。それに加えて当時の道路のほとんどが未舗装だった為、そこを走る上で、馬力があり頑丈なバイクが求められていました。

これだけの条件を満たすバイクを作るのは相当に苦心したと思います。しかしこの無理難題とも言える制約の多い状況下で、何とか良いモノをつくろうと創意工夫を重ねた事によって、業界初の軽く丈夫なポリエチレン樹脂製カバーや、女性でも足付きの良い21インチタイヤ(主流は24~26インチ)など、これまでの常識を超えたデザインが数々生み出されたのです。

こうして、誰もが手に届く価格帯で、丈夫で使いやすく、流行り廃りに左右されない普遍的なデザインができあがったのでした。そんな開発の経緯を知ると、むしろ制約があった事で良いモノが生み出されたとも言えるのではないでしょうか。

このような「制約の中でのデザイン」は、やどりの東京都内中心の家づくりにも同じことが言えると思います。
都内の立て込んだ住宅地の限られたスペースの中で、多くの法規制や構造的な条件をクリアしつつ、使いやすく居心地の良い住空間をつくる事が求められます。その制約の中でも試行錯誤を繰り返す事で、制約のない自由な発想の中では出てこなかったであろうデザインが生み出される事があるのです。

制約がある、というのは不自由で身動きがとりにくい状況であると言えます。しかし一方で、制約がデザインを考える手掛かりとなって、創造性が大きく発揮されているのかもしれません。やどりのこれからの家づくりも、制約を良いデザインを生むきっかけに変えて、都内で愉しく心地よく暮らせる住宅にしていきたいですね。

ちなみに、スーパーカブのデザイン担当をした 木村讓三郎さんは、開発当時、大学を出てホンダに入社したばかりの 新米デザイナーだったそうです。同じ新米の設計者として焦りを感じましたが、負けないように精進しよう!そんな気持ちになりました。

(仲間)